明日の君と



のんびりと車を走らせた割には、10時過ぎにボクらは本栖湖に到着していた。
まだ富士山からの吹き下ろしもでておらず、湖面は凪いでいた。
その凪いだ湖面には、山頂に雪を戴いた富士山が鏡のように美しく写しだされていた。

「キレイだね」

香奈さんはタメ息をつくように呟いた。

「よかったっス、早く着いて。あと30分もすると山から風が吹いてきて湖に波がでちゃうから」

「ねぇ、イツキ、写真撮ってもらおうよ」

そう言って香奈さんは近くにいた観光客の女性に声をかけ、デジカメを手渡していた。
その初老の婦人は快く了解してくれた。
ボクと香奈さんは、湖と富士山を背景に並んだ。
香奈さんはボクの腕に彼女の手を絡めてきた。

「ちょっと、彼の方、もっと笑って、免許の写真じゃないんだから。ハイ、撮るわよ~」

婦人は大きな声で言ってシャッターを押した。
念のためもう1枚撮影してもらい、彼女にお礼を言いデジカメを受け取った。

「どれどれ、ありゃ、イツキ、アンタ相変わらず硬い表情してるね」

「ハハ、どうもカメラ向けられると緊張しちゃって。それに、ホラ、香奈さんがこうやってボクの腕にくっついてたでしょ?そしたら肘にナニか柔らかいものを感じてしまってね、そ、その、ニヤケないようにするのに、必死だったッス」

「最っ低!バカイツキ!」

彼女の罵声にボクは苦笑いするしかなかった。

ボクらは湖畔をしばらく手をつないで歩きながら、とりとめない会話に興じた。
次第に富士山から吹き下ろしが吹き始め湖面は細波たってきた。
少し肌寒さを感じたので、車に戻って早めの昼食をとることにした。

「ジャーン、これが香奈さん特製のサンドウィッチだ。イツキ君、とくと味わいたまえ」

そう大業に彼女は言って、ランチボックスからサンドウィッチを取り出しボクに手渡した。
ボクは玉子サンドを一口食べてよく咀嚼した。
彼女はボクの様子をじぃっと見つめている。

「美味しいですよ。なんだ、香奈さん、ちゃんと料理作れるじゃん」

ボクは素直な感想を口にした。

「料理ってもサンドウィッチだからね。まだまだ煮物とかはサッパリダメなのよ。まっ、サンドだけでもイツキに合格点もらえてよかったわ」

香奈さんは嬉しそうに次々ボクにサンドウィッチを手渡した。


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