明日の君と


結局スワンに乗ってる間はボクは全力でペダルを漕ぎ続けた。
おかげで11月だというのにボクは汗だくになってしまった。
逆に香奈さんは風に吹かれていたせいで寒いと宣っていた。

「イツキ、寒いからなんか温かいもの食べたいね。ラーメン屋さんとかないかな?」

「ボ、ボクは暑くてアイスでも食べたいくらいなんですが」

ボクは息を切らし加減で続けて言った。

「あっ、どうせだったら、ほうとうでも食いません?」

「ホウトウってなに?」

彼女は食べたことはおろか、ほうとう自体知らないようだった。
山梨県民が聞いたら悲しむことこの上ない。
かく言うボクも、山梨県民である。

「煮込みうどんみたいなものでこの辺の名物料理ですよ。美味いッスよ」

ボクはボート屋の主人にお薦めのほうとうの店を尋ねることにした。
車で5分も行けばデカい看板を出した店があるというので、そこに行ってみることにした。
湖畔道路を少し走ると、ご主人の言った通りのお店を見つけた。
ボクらはお店に入り、メニューを眺めた。
そのメニューの中から、香奈さんは普通のほうとうを、ボクは猪ほうとうなるものを各々注文した。

「麺がすごく太いんだね。温かくて美味しい。味噌味なんだね」

彼女はホフホフいいながら、初めて食べるほうとうに舌鼓を打っていた。

「温まるっしょ?この入ってるカボチャがまた美味いんだ」

ボクもホフホフいいながら食べた。

「あっ、そうだ、店長への土産ほうとうセット買っていってあげようっと」

「イツキ、きっと店長さん喜ぶよ」

「うん、でもどうしよう、来月あたりから『ほうとう始めました』なんて貼り紙店内に貼り出されてたら」

そう言ったボクも、それを聞いていた香奈さんも、喫茶店内にある貼り紙を想像して吹き出してしまった。

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