明日の君と


香奈さんのいれてくれたカフェオレのおかげで、ボクは少し疲れがとれた気分がして嬉しくなった。

「ありがとう、香奈さん。美味しかったです。それで、明日どこに行きましょうか」

ボクは彼女の意見を聞きたかった。

「そうね、どこがいいかなぁ」

「香奈さん、何がほしいの?」

「う~ん、そうねぇ、うん、安物でいいから指輪かなぁ」

そう言って彼女はニコリとした。
そしてクルリと表情を変えた。

「そうだ、ねぇ、イツキ、今日撮った写真パソコンで見てかない?」

彼女はふと思いついたように提案してきた。
その香奈さんの顔は、楽しみを見つけた子供みたいに見えた。

「いいっスね」

そう答えて、彼女の部屋にボクらは向かった。
香奈さんはパソコンを立ち上げメモリーカードをカードリーダーに挿入した。

「どれどれ、ほう、上手く撮れてるね」

彼女は本栖湖で撮った最初の写真を見て言った。
そして、次々と写真を進めていった。

「あっ、この写真だ!イツキがヤラシイこと考えてるやつ。うわっ、ヤダ、イツキからヤラシイオーラ出てるよ」

彼女は本栖湖で撮った、ふたりで腕をくんでる写真を指差して言った。

「なんスカ、ヤラシイオーラって」

そう言いながら写真を見てボクは思った。
ホント香奈さん幸せそうな顔して写ってんなぁ、かわいい。
ボクらは今日いっぱい撮った写真を見てはバカ言ったりして楽しい時間を過ごした。
中には必死の形相でボートを漕ぐボクや、風でボサボサ頭になってる香奈さんの写真もあった。

「あっ、そうだ、確かこのファイルに清里行った時の写真も入ってるはずよ」

と言って香奈さんは清里と書いてあるアイコンをクリックした。

「あっ、でてきた。ねぇ、イツキこれ見て、すっごいウケる」

そう言って彼女が指差した写真は、清里大橋で腰を抜かした香奈さんにボクが肩を貸しながら歩いてるものだった。
写真の中の彼女は子供みたいに口を尖らせイジケ顔をしていて、ボクの方はというと、スッカリ困ってしまったといったという顔をしていた。

「ホント、この時怖かったんだから」

彼女は呟いた。
ボクはゴメンねと一言答えて、彼女を背中から抱きしめた。
香奈さんの小さな背中を抱きしめながら、壁掛けの時計に目をやった。

「あっ、もうこんな時間か、ボクそろそろ帰ります。今日はホント楽しかったッス」

ボクの言葉を聞くと香奈さんは表情を曇らせた。そして、

「ねぇ、イツキ、今日は、帰らないで……誕生日になる瞬間、イツキと一緒にいたいの」

と消え入りそうな声でそっと呟いた。


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