明日の君と
「ねぇ、イツキ、今日は、帰らないで……誕生日になる瞬間、イツキと一緒にいたいの」
ボクはその言葉に少なからず動揺した。
言葉通りに受けとって、12時になる瞬間を、ふたりでいたいだけなのか。
それとも、ボクが香奈さんを、ほら、なんつうか、ね、欲しいと思っているように、香奈さんもボクを……
これでいいのか?
これが男と女の普通の流れなのか?
麻貴子の時はお互いの早く大人になりたいという気持ちから、ガツガツしてしまったけど。
おい、樹、今は香奈さんのことだけを考えろって。
ただ、彼女のためにできることはなんだってしたい、彼女が喜んでくれるならなんだってするつもりだ。
もちろん彼女のことを、なんつうか、抱きたくて仕方ないことも事実だけど、もし彼女がそれを望まないのであれば我慢できる、はずだ。
ボクの家で朝まで過ごした時のように、語り合い続けるだけでも充分幸せだよな、多分。
家に帰ったらひとりだけど、なんてったって、ここには、香奈さんがいるじゃないか。
それって、すごく嬉しいことだよな。
絶対に!
少しの自問の後、ボクは彼女に言った。
「わかりました。香奈さんがボクより1歳年上になる瞬間をふたりでお祝いしましょうか」
ボクの言葉に、彼女の顔は華が咲いたように明るくなった。
「ありがとう、イツキ」
そう言って香奈さんはボクの胸に飛び込んできた。
ボクは改めて彼女の華奢な体を強く抱きしめた。