明日の君と
「イツキ、泣いてるの?」
ボクの涙を見て、香奈さんは不思議そうに訊いてきた。
「あれ?なんでかな?ボクにもよくわからないや。ただ、なんて言うか、あの、その、ただ嬉しくて」
ボクは腕の中の彼女に言った。
「かわいいとこあるのね、アンタも」
そう言って彼女はボクの涙に濡れた頬に口をつけて、
「ん、やっぱりしょっぱいね」
と優しく微笑んでくれた。
ボクはその唇が欲しくてたまらなくなり、そっとキスをした。
その柔らかい唇も涙の味がした。
「イツキ、私もね、すごく嬉しかったんだ」
彼女は恥ずかしそうに小さく呟いた。
そして不意に、
「あっ、そういえばアンタ、つけてなかったでしょ?」
と大声を出した。
「あ、あっ、ゴ、ゴメン」
ボクは謝るしかできなかった。
「まぁ、いっか、ただ、もしもの時は責任とってね、イツキ君」
香奈さんはイタズラっぽく笑って言った。
「せ、責任て?」
少し慌てたボクを見て、香奈さんはため息をひとつついた。
「それを私に言わせるのか?マッタク女心のわからんヤツだな、そ、そのね、もしもの時は、その、なんて言うのかな、わ、私をイツキの、お、お嫁さんにしてってこと」
彼女は口ごもりながら言った。
彼女の言葉は、最後の方は聞き取りにくくなってしまっていた。
ボクは、一生懸命な彼女の言葉を嬉しく思って、香奈さんにそっと微笑みかけた。
「香奈さん、任せてください。そういうこと無しにでも、いずれね、もらってあげますから。約束しますよ」
ボクの言葉に、彼女は照れ隠しなのだろうか、少し語気を強めて言った。
「なに、そのもらってあげるって上から目線は!バカイツキ」
『バカイツキ』この言葉、彼女が口癖のように言うこの言葉、ボクは満更嫌いじゃないんだな。
そんなことを思いながら腕の中の彼女をもう一度ギュッと抱きしめた。