明日の君と
「ねぇ、イツキ、明日どうする?」
私の隣で缶ビールを美味しそうに飲む彼に訊いた。
「久しぶりに本栖湖にでも行こうか?天気も良さそうだし、バイクに乗ってさ」
本栖湖かぁ、イツキと初めてドライブに行った湖だ。
その時は私の誕生日の前日で、もう初冬と呼べる時期だった。
「懐かしいね、本栖湖。夏はどんな感じなの?」
「夏もキレイなところですよ。さすがに富士山に雪はないけど、標高も高いから涼しくて快適な場所ですよ。じゃあ、明日は本栖湖でボートにでも乗りますか」
そう言いながらイツキは私に優しく微笑んだ。
翌朝、私たちはレザーのライダージャケットを着て、お揃いのヘルメットを被りバイクに跨った。
もちろん、私は後部座席に座りイツキにしがみついているだけだが。
「香奈さん、寝不足だからって居眠りして落っこちないでよ」
彼は後ろを振り向いて、私に言った。
「寝不足って、ドコのダレだよ、寝させてくれなかったのは!」
私の言葉にイツキは、デヘヘヘ、と笑って、ヘルメットを被った上から頭を掻いた。
「香奈さん、ホントしっかり掴まっててよ。じゃあ、出発!」
7月の少し蒸し暑い中、私たちは風を切り裂きながら走り続けた。
目の前に広がる空は青く澄み渡っている。
流れゆく山の景色は、これから迎える夏に備えて、よりいっそう、緑の色を濃くしていた。
そんな中、私は心の底から愛おしい彼の背中に体を預け、これからのふたりのことに思いを巡らせた。
イツキ、あの時、言ってくれたよね?
明日は明日の、明後日は明後日のイツキと私は一緒だって、未来の私たちはずっと一緒だって。
信じてるよ、イツキ、そのイツキの言葉。
私は遠くの青い空に目をやった。
私ね、イツキ、アンタと一緒なら、あの空の青色のむこうがわにも、空にかかる虹のむこうがわにも、どこにだって行ける気がするの。
ホント、イツキと一緒ならね。