明日の君と
本栖湖に到着したのは、ちょうどお昼頃だった。
目の前には大きな黒い富士山がその雄大な姿を見せている。
湖は富士山からの吹き下ろしの風で少しさざ波立っていたが、その透明度の高さは相変わらずだった。
「いつ来ても、ここはキレイだなぁ」
イツキは伸びをしながら深呼吸をした。
「それに、空気も美味いし」
彼の言葉に、私も深呼吸してみた。
胸の中に澄んだ空気が広がっていくのがわかる。
「ホント、空気も美味しいわね。ねぇ、イツキ、ボート乗る?」
「そうだね、風が強くなる前に少し乗っておこうか?」
私たちはレンタルボートを借りて湖上に出た。
その透き通った湖面は太陽の光を眩く反射しながら、真っ青な空の色とそこに浮かぶ真っ白な雲の色を映し出していた。
「キレイだね」
私はため息と一緒にそんなひとことを吐き出した。
他になんの例えようもないほど、湖面に映る太陽と空と雲は美しかった。
そんな風に、湖面に見とれていた私にイツキが声をかけた。
「香奈さん、膝借りていい?香奈さんの膝枕で昼寝してみたいんだ」
まったく、甘えん坊だな、イツキは。
彼はそっと体勢を変え、私の膝の上に頭を置いた。
彼はゆっくりと目を閉じた。
そして、規則正しい寝息をたて始めた。
私は彼の頭にそっと触れ、そして優しく撫でてあげた。
優しい風が爽やかに私たちのボートの上を駆け抜けていった。
風にもてあそばれて軽く乱れた彼の髪を、私はそっと直してあげた。
イツキと一緒に過ごせるこの1分1秒が私に幸福をもたらせてくれる。
ずっと、こうして、一緒にいたいよ。
私の目に涙が突然湧き上がってきた。
そのうちの1粒が水滴となってイツキの額に落ちた。
彼はゆっくりと目を開け、私を見た。
そして、私の流している涙に驚いて座り直した。
「ど、どうしたの?香奈さん」
「なんでもない、ただ、ちょっと」
「ただ、ちょっと?」
「なんかね、うれしいの」
私の言葉に、イツキは包み込むような柔らかい笑みをそっと浮かべた。