明日の君と
約束の時間より10分程早く駅に着いた。
喫煙所で一服しながら待っていると里沙さんがやって来た。
「里沙さん、コンチワっ!」
「武田君、待った?」
最高の笑顔を、里沙さんは見せてくれた。
「タバコ1本も待ってませんよ」
ボクのそんな返事に里沙さんはちょっと眉をしかめた。
「タバコは感心できないわねぇ。あと、私に敬語使わないでって、前にも言ったじゃない」
「ヘヘッ、なんかほら、里沙さん、元同級生とはいえ、ほら一応先輩じゃん。なんかね、ほら、ね」
なに舞い上がってんだボクは。
「武田君、意味不明」
里沙さんは再び笑って言った。
「そういえば、中野さんは?」
「香奈なら今日来れないって」
「へっ?なんで?」
「なんかね急に体調悪くなったって、代わりに武田君が買い物付き合ってくれるって言って、帰っちゃった」
も、もしかして、中野さん?ボクのためにワザと?
なんていいヒトなんだぁ!
この機会、絶対に無駄にはいたしません!
「私の買い物つき合わせるなんて迷惑よね?ごめんなさい、武田君」
「いえいえ、滅相もございませぬ。この武田樹、荷物持ちの仕事、人生の全てを懸けて務めさせていただきます」
「いやだぁ、武田君、それなにぃ~ 時代劇?」
里沙さんはかわいらしい笑顔で言った。
彼女の微笑みを見ただけでボクの胸は苦しくなった。
心底惚れてんなぁ。
最初は本屋に行った。
ゼミの参考文献を探すそうだ。
彼女は3冊岩波の書籍を買った。
その後はインテリアのショップに向かい部屋のカーテンを選んだ。
里沙さんは淡いピンクのレースのカーテンを買い、その荷物をボクが持った。
そのまま近隣のショッピングモールに行きバラエティーグッズや楽器などを見て楽しんだ。
ホント楽しかった。
デートみたいに、彼女の隣を彼氏ヅラして歩けるだけで。
お礼にコーヒーでもと、里沙さんはボクを喫茶店に誘ってくれた。
「あ、あのね、武田君」
「ん?なに?」
なんか、意を決するような感じで里沙さんが話しかけてきた。
「武田君、彼女と別れちゃったって言ってたよね?」
こ、これは。
「だから、今いないんでしょ?彼女」
き、きたのか、キタかっ?
「好きになっちゃったみたいなの」
き、キタ――――――ッ!!
「香奈が、武田君のこと」
「ふへっ?」