明日の君と
朝日奈君は俯いたまま、悔しそうな顔をした。
「なんで、彼女が死ななければならなかったんだろう?できることなら僕が代わってあげたかった。命さえ助かれば、仮に多少の不自由が残ってしまったとしても、きっと楽しいことが彼女にはいっぱいあったろうって。ついつい、そんなこと考えちゃうんすよ。誰かの歌じゃないけど、普通の日常が後になって幸せだったと思う、って。ほんと、そう思いますよ、彼女が生きていてさえいれば幸せだったんだろうって」
彼は一言一言絞り出すように話した。
「もしね、それが彼女の運命だったって言うヤツがいたら、そいつに問いただしたいんです。そんなの、誰が決めた運命なんだよって。もし、神が彼女の運命をそう決めていたのなら、結婚式に出席した当日に言うのは不謹慎かもしれないけど、そんな神なら、僕は神など一切信じられない」
私は朝日奈君に、どう声をかけていいのかわからなくなった。
彼も私と同じ傷を持っている。
普段、職場で明るく振る舞っている朝日奈君の過去にはこんな辛い経験があったなんて、全く気が付かなかった。
「朝日奈君、ごめんね。辛い話させちゃって。ただね、悲しいし、やるせないのもわかるけど、彼女の人生でね、朝日奈君と一緒にいられたという事実は、彼女にとって幸せな時間だったと、私は思うわ」
私は気持ちをうまく言葉に現すことができなくて、歯痒く感じてしまった。
「七尾さん、ほんと、こんな話聞かせてしまってすみませんでした。それに七尾さんのおっしゃった通り受け止めれば、少しは気が楽になるかもしれません。ありがとうございます」
そう言って彼は顔を上げ不器用に微笑んだ。
彼の辛い独白を聞いて、私は当然のように一也のことを思い出した。
そして自然と目には涙が浮かんだ。