明日の君と
「七尾さん、今日はご友人の結婚式でしょ、僕もいとこの結婚式だったし、おめでたい日なんだから、湿っぽい話はこの辺で切り上げましょっか」
朝日奈君は無理にニィっと笑って言った。
「それもそうね、でもそもそも、言い出しっぺは朝日奈君だったのよ」
私も涙を拭いて笑顔を作った。
「それもそうでしたね。すみません」
「そういえばね、私、思ったんだけど、朝日奈君、『すみません』て口癖のように言うけど、なんに対しても少し謝りすぎじゃない?」
「そうですね、営業になったら謝ること多くて。口癖になってますね。すみません」
「ほらまた」
「ハハハ、今のはわざととです。七尾さん、飲み物同じのでいいですか?」
そう言って彼はファジーネーブルとスクリュードライバーを注文した。
私達は新たに出されたグラスを持って再度乾杯した。
「朝日奈君もノホホンとしてるように見えたけど、辛い思いしてたんだね」
私は朝日奈君のメガネの奥を見ながら呟いた。
「七尾さんに彼氏がいない理由もよくわかりました。おっと、このままいくと話がまた湿っぽくなっちゃうな。ねぇ、七尾さん、お互い、さっきの話は内緒にしときません?」
彼はおどけたように言った。
「そうね、そうしましょう。実はね、私の話のことだけどね、社長は知ってるの。ちゃんと秘密にしててくれるけどね」
「えっ?社長が?なんで?」
「社長とね私の祖父と色々付き合いがあってね、そのコネで私、今の会社に入社したの。その時社長ね、祖父から色々釘刺されたみたいで」
私は祖父に連れられ社長と初めて会った日のことを思い出した。