明日の君と


「七尾さん、今日はご友人の結婚式でしょ、僕もいとこの結婚式だったし、おめでたい日なんだから、湿っぽい話はこの辺で切り上げましょっか」

朝日奈君は無理にニィっと笑って言った。

「それもそうね、でもそもそも、言い出しっぺは朝日奈君だったのよ」

私も涙を拭いて笑顔を作った。

「それもそうでしたね。すみません」

「そういえばね、私、思ったんだけど、朝日奈君、『すみません』て口癖のように言うけど、なんに対しても少し謝りすぎじゃない?」

「そうですね、営業になったら謝ること多くて。口癖になってますね。すみません」

「ほらまた」

「ハハハ、今のはわざととです。七尾さん、飲み物同じのでいいですか?」

そう言って彼はファジーネーブルとスクリュードライバーを注文した。
私達は新たに出されたグラスを持って再度乾杯した。

「朝日奈君もノホホンとしてるように見えたけど、辛い思いしてたんだね」

私は朝日奈君のメガネの奥を見ながら呟いた。

「七尾さんに彼氏がいない理由もよくわかりました。おっと、このままいくと話がまた湿っぽくなっちゃうな。ねぇ、七尾さん、お互い、さっきの話は内緒にしときません?」

彼はおどけたように言った。

「そうね、そうしましょう。実はね、私の話のことだけどね、社長は知ってるの。ちゃんと秘密にしててくれるけどね」

「えっ?社長が?なんで?」

「社長とね私の祖父と色々付き合いがあってね、そのコネで私、今の会社に入社したの。その時社長ね、祖父から色々釘刺されたみたいで」

私は祖父に連れられ社長と初めて会った日のことを思い出した。

< 97 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop