明日の君と
「朝日奈君の言うとおりかもね。私自身そう思う時もあるもの。でもね、心の奥底でブレーキがかかっちゃうのかな。不意に彼の笑顔を思い出しちゃったりした時に。私、弱い人間なのかな?でも、彼を好きになった事実は事実だし。
もし、誰か別の人を好きになったら、彼への気持ちは嘘になっちゃう気がして。もちろん、頭の中ではわかってるけど。私の思い込みだってことぐらいはね。不器用なのかな、私って」
「七尾さん、なんて言ったらいいのかな。その気持ちは、僕もよくわかります。ただ僕、どこかで吹っ切らなきゃって、いつも思ってるんです。でも、やっぱり、彼女のことを、思いだしちゃうんです。そして、またわけわかんなくなったりして。そうなんですよね。彼女は確かにこの世に存在していた。そして彼女のことを僕は好きだった。このことは、間違うことの無い事実なんですよね。だから、その事はきっと一生忘れられないと思う。そして、忘れてもいけない事だとも思う。だけど、彼女はもう死んでしまったけど、僕はまだ普通に生きている。冷たい言い方なのかもしれないけど、僕もひとりの人間として、未来を向いて生きていきたいって思うんです。でも、頭ではそう思っても、心がついてこないのも事実なんです。僕、なんて言うのかな、今、ちょうどさっき言った事の、その間でどっちつかずって状態なんでしょうね、きっと」
「お互い、考えてることは一緒のようね。でも、朝日奈君の方が人間的に強いわね。あぁ~、今夜は色々思い出しちゃったし、中々寝付けなそうだから、もう少しお酒付き合ってね、朝日奈君」
「わかりました。喜んでお供いたします」
そう言って彼は笑顔を見せながら、ドリンクの追加オーダーをした。