ラブ&ロイド
「…颯…」

一連の事件で、教室は休み時間だというのに静まり返っていた。これまでとはまた違った意味で注がれる視線も、颯は意に介さなかった。

「追いかけたら、慰める奴がいなくなるだろ」

颯は私も、愛も見ていなかった。ただ、下の方を見ていた。

「そんなこと言ったって…蛍はどうするの? それに、颯だってここにいたんだから…」
「俺はアンドロイドだ」

誰にも聞こえないくらい小さな声で、颯はそう言った。その言葉は、ちゃんと私にしか聞こえていなかったようだ。

「俺には乙女心だとか、そういうのは分からない。できることは論理的に分析すること、それだけだ」

颯が私の腕を離し、立ち上がる。そして教室を出て行く。

「どこ行くの…?」

颯は感情を持たないアンドロイドだということを分かっていながら尋ねたのには、きっと私が一縷の望みを持っていたからに違いなかった。

「あと一分半でチャイムが鳴る。二人の居場所は掴んでいる。連れ戻さないと、あとが面倒だ」

歩く速度すら、颯は緩めなかった。階段を上がっていく颯の姿を、私は呆然として眺めていた。

…やっぱり、颯はアンドロイドなんだ。

当たり前のように話して、当たり前のように一緒に行動していたから忘れていたけど、颯は人間じゃないんだ。どんなに精巧なプログラムを搭載されていても、颯に自分は存在しない。何かを考えているようで、何も考えていない。何かを思っているようで、何も思っていない。

常に心がけておくべきそのことを、今一度、焼き付けられた。
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