ラブ&ロイド
「お待たせしました。キャラメルマキアートとバニラフラペチーノになります。どうぞごゆっくり」

ウェイターさんがペコリ、と頭を下げる。

キャラメルマキアートのストローを自分好みの角度に調節しながら、愛はこんなことを話し始めた。

「結って、どうしても忘れたいことがあった時、どうやって忘れてる?」
「う~ん…」

正直な話、どうしても忘れたいと思ったことなんてなかった。ごくごく平凡な人生を送って来たつもりだ。

「テレビか何かで見た気がするんだけどね、思い出の場所に行って経験を誰かに話したら、そのことを忘れられるみたいなんだ」

どうやら愛は、零泉との思い出を忘れたかったらしい。でも、私にしてみれば、方法が間違っているような気がした。

こんな所にいたら、忘れられるわけがない。ここは愛と零泉との思い出の場所なんだから、愛の目にはきっと、この喫茶店の一つ一つが思い出として映っている。

私は今すぐにでも、愛をここから連れ出したくなった。こんな所にいさせちゃいけない。

「愛、行こう」
「行くって…どこに?」
「とりあえずここから出よう」

まだ八割ほど残っているバニラフラペチーノをテーブルに置いたまま、席を立った。

「ちょっ、ちょっと、結!」

止める愛の言葉も聞かず、私は手を握った。

「ねぇ、ちょっと!」

愛をここにいさせちゃいけない。私は、その一心だった。
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