ラブ&ロイド
「じゃあ、直談判してみるか?」
「えっ…?」
「研究所に、返却を取り消してもらえるように頼むんだ。…もっとも、結一人じゃ無理だけどな」

その言葉が何を意味しているのかは、私には容易に想像できた。

「…お父さんに聞いてみるの?」
「ああ。…何か問題があるのか?」
「うん。…問題っていうか、頼みづらいっていうか…」

小さい頃は、私はよく「お父さんの研究所に行ってみたい」と頼んでいた。だけどそのたびに、邪魔されたくないからという理由で断られ続けていた。最初の頃はそれでも頑張っていたのだが、いつからかその一言で心が折れてしまい、小学四年生頃になるともう、頼むのをやめていた。

だから…今更頼んだって、もう無理だ。

「別に強制はしていない。頼むのは結の自由だ。結がどうしたいか、それに委ねる」

そして、颯は言葉を重ねた。

「俺には…意思がない」

ハッとした。

別れを惜しんでいるのは、私だけ。当の颯は、何とも思っていないのだ。

ただプログラムによって出来上がった文字を読んでいるだけ。ただの機械なんだ。

「今日は八時に帰宅するようだ。言うなら早めにしておいた方がいいんじゃないか?」

だけど、今日の颯はどこか、違っているような気がした。

確かにいつもと同じポーカーフェイスだけど、どこか寂しげだった。離れたくない私の勝手な妄想なのかもしれないけれど、颯の姿は、そんな風に見えた。
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