ラブ&ロイド
「あっ、次颯の番じゃん」
「ああ、俺か…」

イントロが流れ出し、マイクが颯の手に渡る。私には分かっていた。颯は、歌も上手いということを。

「ねぇ」

愛がささやく。

「何、愛?」
「颯くん、歌うの上手だと思う?」
「絶対上手だって!」

嘘が上手につけない私は、正直に言っても問題ない所では正直に言うことにしていた。下手に嘘をついてボロが出たら、せっかくの目的も台無しとなってしまう。

「『背伸びばかりしてた僕は』…」

颯の歌声は、音源と完全にマッチングしていた。まるで初めから、音源が颯の歌に合わせて作られていたかのように。

「ね、言ったでしょ?」
「このルックスで歌も上手とか、本当欠点が見当たらな…」

感心を超えて憧れすら含んだため息をつく愛の言葉が、途中で止まった。

「…どうしたの?」
「あの歌い方…」
「愛?」
「えっ? あ…何でもないよ」

動く嘘発見器の颯と一緒にいるからだろうか、私も少なからず、他人の嘘は見抜けるようになっていた。だけどここでは質問しちゃいけないような気がして、口をつぐんだ。

しかし、その時は意外とすぐにやって来た。

「あ、ジュースなくなっちゃった…結、一緒に行こう」
「うん」

空のコップを持ち、部屋を出る。ドアが閉まりきった時、愛はこう切り出した。
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