ラブ&ロイド
「ああ」

颯の顔は、心なしか赤くなっていた。そしてその体は、何かを抑えているかのように、小刻みに震えていた。

「アンドロイドとして暮らしていくにあたって…涙なんてものは、必要がない」

あの時の言葉を思い出す。

研究所に戻って、改良するべき点を改良する。あの時は颯は完璧に見えたから改良点がどこなのか見当もつかなかったけど、そういうことか…。

「…それが…颯の、改良点なんだね」
「いや、少し違う。俺は…」

颯の震えが大きくなる。

「…颯…?」

私が手を握ると、颯は左手を重ね、下を向いた。

「俺は…!」

シーツの色が点々と濃くなる。大粒の涙が、颯の目から滴り落ちていた。

「…颯…? どうしたの…?」
「俺はっ…!」

きっと、颯はこの言葉を言うのに、そこはかとない勇気を必要としたに違いなかった。

嘘なんてついてこなかった颯が、たった一つ、それもとても大きな嘘をつこうとしていたのだから。

目を真っ赤にして、颯は私をしっかりと見つめた。そして口元をわなわなと震わせ、喉に貼りついていた言葉を、やっとの思いで舌に飛び乗らせ、そして声として私に届けた。

「俺は…零泉翔だ」
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