強引同期が甘く豹変しました
けれど、それは数分後。突然のことだった。
「永井」
カチカチとキーボードを叩いていると、後ろからそう名前を呼ばれて、キーを打つ私の指が止まった。
振り返ると、見覚えのあるスーツとネクタイが視界に飛び込んできた。
座ったまま目線をゆっくりと上げていったけれど、見上げる前にそれが誰なのかはわかっていた。…矢沢だ。
「なに?どしたの?」
とにかく普段通り、平常心を心がけた。
「あ、今日の会議で使うECバンクについての資料なんだけど」
「あぁ、そうだ。刈谷部長に頼まれてたやつ、システム事業部からデータもらって、先週とりあえずまとめておいたんだ。今思い出した…」
本当は朝、電車の中で伝えるはずだったのに。
あんな密着状況になってしまってすっかり脳内からぶっ飛んでしまってた。
「で、何部いるの?コピー」
「んー、10部ずつあればいけるかな」
「オッケー」
矢沢にそう言うと、私はすぐにデスクの引き出しを開け、まとめていた営業部の会議用資料を取り出すと、営業部と総務部の中間に位置するコピー機に向かった。
資料は全部で8枚。10部ずつだから、80枚か。
用紙の残量を確認すると、コピー機を操作して印刷開始のスタートボタンを押した。