強引同期が甘く豹変しました
矢沢は元々、営業部の中では一般企業部門を担当していたけれど。
営業成績が他者よりもずば抜けて突出していて、入社一年目の秋には、やり手と呼ばれていた企業部門の佐伯課長を抑えて矢沢がまさかのトップに立った。
それからというもの。
企業部門だけではなく営業部全体で見ても、契約の獲得件数はいつも一、二を争うような成績をあげていた矢沢は、いつのまにか常に上位にいるような優秀な営業マンになっていた。
そして、三年前の春ーーー。
専務から直々に部門異動を告げられた矢沢は、営業部の中でも超デキル人間しか配属されないという噂の銀行部門へとうつった。
同期である男たち4人は、その時それぞれが矢沢に声をかけた。
小林は、羨ましそうに皮肉った。
「なんなのマジで、出来過ぎ」だと。
杉崎も言った。
「おまえエリート街道まっしぐらじゃん」と。
ニッシーと真木は、手を叩いて喜んだ。
「矢沢は同期の誇りだ」って。
だけど当時の私は、矢沢の銀行部門への異動には、嬉しさと心配が半分ずつで素直におめでとうとは言えなかった。
確かにそこは、選ばれた、デキル人間しか配属されない部門だ。
けれど他部門のように既存のシステムセキュリティを売り込み契約を結ぶのが目的ではなく、銀行を相手により安全な情報保護セキュリティの新システム導入を売り込むため、取引する金額も桁違いで莫大なお金が動く。
だからこそ、契約をとることはより難しく、厳しいところだった。
それでも営業部は、結果が全て。
契約をとってなんぼの世界だ。
余計なお世話かもしれないけど。
人事異動だし、上司に言われちゃ仕方なかったんだろうけど。
そんなことを考えていると、入社当時からトップを走り続けてきた矢沢が、銀行部門に異動になるなんて…大丈夫なのか。一般企業ではなく銀行を相手に今までのように契約をとれるのかって勝手に心配になっていた。