強引同期が甘く豹変しました


いつも矢沢には助けてもらってばかりだったのに。何にもできない、言えない自分が歯痒かったのを、今でもよく覚えている。

だけど矢沢が弱音を吐いたのは、後にも先にも、その一度きりだった。

その翌日からはいつもの矢沢と変わらなかった。

きっと、毎日必死に頑張っていたと思うけど。私たちの前では、いつだって元気で明るい矢沢だった。


でも、私は知っていた。

お疲れ、と帰ったあとにも、先方の都合に合わせて営業先に出向いていたことを。
連日のように最後まで残って、暗いオフィスで企画書を仕上げていた夜のことを。

何故か偶然。どういうわけか、そういう場面にバッタリ出くわしてしまうことが何度かあったから。

その度、すごいなって。
みんなには見えないところで、こんな風に頑張ってるんだなって。

矢沢への見方が、少しずつ変わっていった。


だけど私は、それを見て何かを言ったりはしなかった。
矢沢が望んでいる結果を出せるまでは、そっと見守っていた…なんて言ったら笑われそうだけど。


目標に掲げていたメガバンクとの取引が掴めるまでは、努力する姿を黙って見守っていたかったんだ。


< 133 / 202 >

この作品をシェア

pagetop