強引同期が甘く豹変しました


「ふふっ、ヒソヒソ話してるなぁと思ってたらそういうことだったんだ」


帰る支度をしてオフィスを出ると、先ほどのやり取りを知った紀子はそう言って笑う。


「あいつきゅうり大っ嫌いだもんな。ま、今日はいずみ銀行のこともあったし。軽くお祝いってことで。きゅうりは使わずに何か作ってやってよ」


それからタイミング良く廊下で一緒になった杉崎も。
揃ってエレベーターに乗り込むと、そう言って紀子の隣でクスクス笑った。


「お祝い…ね」


ぽつりと言葉を返した私は紀子たちと駅に向かうと、二人とはホームで別れ、ひとりで帰路についた。


そして電車に揺られて辿りついたのは、矢沢のマンションから徒歩五分くらいの場所にある大きなスーパーだった。

入口で買い物カゴを手に取った私は、店内をゆっくり進みながらぼーっと考える。

何作ればいいんだろ。
一応?お祝い、だけど。
すぐに出来ちゃうオムライス、とか。パスタとか?いや、それだとお祝い感とか皆無だし、簡単に済ませたなって感じがするし。

かといって…あんまり手の混み過ぎたものを作ると、なんか頑張りました感が出ちゃっても…なんか嫌だし…。


そんなことを考えながらグルっと店内を一回りすると、私はふと閃いた。


冬だし。部屋も暖まるし。お祝い感、ちょっとあるし。

美味しそうなお肉買ってすき焼きにするか?
でも矢沢の家にすき焼き用の鍋なんてありそう?いや…9割なさそうだ。

やっぱりやめよう。普通にいこう。
矢沢も何でもいいって言ってたし。気合い入れずに簡単にオムライス…と、サラダと…。
そうだ!オムライスはオムハヤシにしちゃおう。

ソースがハヤシだと私はちょっとだけテンションあがるタイプだし。

そうと決まれば買い物はあっというまに済まされ、シャンパンとスーパー内のパン屋さんで偶然見つけた二つ入りのショートケーキをついでに買うと、私は矢沢のマンションに急いだ。


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