強引同期が甘く豹変しました
「お邪魔しまーす」
矢沢がいないとはわかっているけれど。
玄関の鍵を開けると、一言断りをいれて中に入った。
ひとまず買い物袋をキッチンに運び、カバンから取り出したヘアクリップでおろしていた髪を一つにまとめて手を洗った。
「よし、やりますか」
勝手にキッチンを使わせてもらうのは気を使うけど、ごはんを炊くためにお米を探し、調味料などの場所も確認させてもらった。
だけど、キッチンで色々と探しているうちに、私は気付いていく。
調味料は見事に揃っているし、料理に凝ってなきゃ使わないような珍しいスパイスなどもあって。
食器棚を開ければ、可愛い器やグラス、引き出しにはランチョンマットまで揃っていた。
しかも、その全てが見事に二つずつ。
そしてそれらを見つける度、ドキン…と不快な音が胸の中で響いた。
リビングはシンプルで、カウンターキッチンの前に四人がけのダイニングテーブル、その奥にはソファにテレビボード、ガラスのテーブル。
それ以外は特に余計なものは置かれていない。
だけど、見えない部分…例えばこの、開けなければわからなかった食器棚の中とか。
昨日開けてしまった、洗面所のクローゼットの中とか。
そういう隠れた場所には、明らかに女の物とか、女の趣味だよね的な食器とか。
こういう物たちがたくさん隠れていた。