強引同期が甘く豹変しました
「だってさ、結婚して幸せだーとか言ってんのって、結婚式とか新婚ホヤホヤがピークだろ?」
ベッドで寝そべる康介が、片手で携帯を触りながら続ける。
「周りの話とか聞いてても、結婚は人生の墓場だってマジ思うもん。稼いだ金は全部握られて?少ない小遣いで飲みに行くにもやりくりしたり?仕事で疲れてても休日は当然のように家族サービスさせられたりとかさ」
えっ、何?結婚に対してのネガティヴなそのイメージ。
「一人の自由な時間もなければ家の中でホッとするのは風呂とトイレだけとか聞くし。結婚してる先輩とか友達のそういう話聞いてたら、マジぞっとするんだよね」
目線はずっと、携帯の画面に向いたまま。
こっちを見ることはないくせに、次から次に愚痴のような言葉を私にこぼしてくる。
「そもそも結婚とかいう縛りなんてあるべきじゃないと思うんだけど」
返す言葉なんて見つからなかった。
共に過ごしてきた月日で築いてきた私たちの関係。
それが音を立てて崩れていくような気がした。
じゃあ何?どういうつもりで同棲までしてたわけ?
ひどい。最低。何なの?最悪。
咄嗟にそんな言葉が次々と頭の中に浮かんだ。
だけど腹の奥底にある本音を言えば、私も人のことを言えないくらい…ひどくて最低な女だったのかもしれない。
もしも仮に。もしも私が自由に。もしも結婚相手を誰でも選べるとしたなら…
私はたった今自ら逆プロポーズをしかけたばかりの目の前にいるこの男ではなく、誰か別の人を選んでいたと思う。
そもそも、交際期間は1年とはいえ、会うのは週に一度程度だった。
そのせいもあってか、一緒に暮らしてからというもの、それまで見えていなかった嫌なところばかりに気がつくようになっていた。
掃除に洗濯に料理。それらの家事は、女がするのが当たり前とか。ゴミ出しでさえ渋って嫌々行くところとか。
平日でも関係なしに深酒をして、二日酔いで仕事をズル休みしたこともあったし、趣味が競馬と競艇だからとか言って、ギャンブルの浪費癖があったり。
ぶっちゃけ良いところを探す方が難しくなってきていたくらいだった。
それからもうひとつ。一番引っかかっていたポイントは、子供が好きじゃないことだった。
一緒にテレビを見ていた時。泣いている赤ちゃんを見ながら、康介は言ったのだ。
「赤ちゃんってなんでこんなに泣くわけ?ピーピーうっさいよな。騒音レベルじゃね?」
聞いた瞬間、正直引いた。
赤ちゃんなんて泣くのが当たり前。なのにその声を騒音扱いすることにかなりの違和感を覚えた。
そしてその違和感は一度だけに留まらず、街中を歩いている時もはしゃいでいるチビっ子を横目に舌打ちをする姿を見たり、泣いている子供を見てため息をついたり。
そういうことが重なるたび、私の感じていた‘‘もしかしたら’’という違和感は、次第に‘‘やっぱりそうなんだ’’という確信へと変化していった。
それでも目を瞑って、他人の子だからだろうとか。自分の子ができたら変わるだろうとか。
私もいい歳だし…30になるまでには結婚はしたいし…って。
結局は妥協しながら、私なりに我慢に我慢を重ねて今の関係まで積み上げてきたはずだったのに。
壊れる時は、一瞬だった。