強引同期が甘く豹変しました
すると何故か矢沢はクスッと笑って。
「はいはい。じゃあ、とりあえずまだ時間早いけど飲み行くか」
そう言って私の肩を抱くと、そのまま歩きだしていく。
「ちょっ、何でそうなる?」
「だって、しばらくホテル暮らしだといろいろ金かかるだろ」
「…まぁ」
「だーかーらー、優しい同期が今日はうまいもん食いに連れてってやるよ」
矢沢はそう言うと、肩に置かれていた手を私の頭にぽんっと乗せ、ニッと笑顔を見せた。
不意打ちのその笑顔と優しい手の感触に、思わず胸の奥がドキンと反応した。
でも、こんなことくらいでいちいちドキドキしてる場合じゃない。
矢沢にとってはきっと…こんな行為にも深い意味なんてない。
彼氏と別れて困った状況の同期に、ただ少しだけ…優しくしてくれているだけだ。
慌ててそう思った私はすぐに口を開く。
「…じゃっ、じゃあ!鍋!鍋がいい!モツ鍋が食べたい」
「お、いーね、モツ鍋」
「最近出来たとこなんだけど、ちょっと待って、場所調べるから」
と、とにかく平常心を取り戻せ。
早くおさまれ、このドキドキ。
そう思いながら携帯を操作した私は、すぐに目的地のモツ鍋屋を見つけた。
「ここから二駅だって」
そして矢沢にそう言うと、少し距離を取るように私は先に歩き出した。