強引同期が甘く豹変しました
「本当、何それ、だよな」
珍しく真面目な顔だった。
矢沢のその表情に、思わず息を飲んだ。
「自慢じゃないけどさ、誘った女に断られたことなんてなかったから。記録更新する度、最初はちょっと楽しんでたんだ、俺」
「…そう」
「でも、さすがに15回超えたあたりから何やってんだろってなってさ。20回目でやーめた、って。なんか一気に面白くなくなったんだよ」
矢沢はそう言うと、クスッとわざとらしい笑顔を浮かべて。
「一年目の夏にはあんなこともあったし?口を開けば言い合いばっかだし。マジでおまえに嫌われてんのかと思ってた」
半分残っていたジョッキのビールを一気に飲み干した。
「や、全然…そんなんじゃない…けど。森さんのことがあったから。その…矢沢との距離感に気を使ってはいた」
「ふーん」
「ずっと、森さんは矢沢のこと好きなのかと思ってたからさ。だから去年いきなり結婚しますって辞めちゃった時は本当にびっくりしたんだよね」
去年の秋、森さんは結婚を機に寿退社したけれど。
出社最後の日、森さんの口から出た結婚相手との馴れ初めを聞いた時は正直驚きを隠せなかった。
交際期間は四年近くだったそうで、私の思い込んでいた想像とは全く違っていた。
森さんはずっと矢沢のことが好きなのかと思っていたのに。実際は新たな出会いを経て、着々とゴールへと向かっていたのだ。