強引同期が甘く豹変しました
言い返す言葉が見つからなかった。
だから、黙り込むしかなかった。
反論なんて出来っこなかった。
だって矢沢の言葉は、間違ってない。
「焦って大事なこと決めようとすんなよ」
「……あんたに言われる筋合いなんてない」
「ある」
「何で?」
「何でって……一応、大事な同期だからだよ」
あぁ、もう最悪だ。
今になってアルコールが回ってきた?
なんで?
だんだん視界がぼんやりしてきた。
「意味わかんない」
「…ごめん、ちょっと言いすぎた」
首を横に振りながら、私はおしぼりで顔を隠した。
浮かんできた涙に気づかれたくなかった。
この涙は、論破されてしまった悔しさだ。
正論を並べられると勝ち目なんてない。
親の忠告を受け入れたのは自分。
同棲しようなんて言われて、それを実行にうつしたのは自分。
妥協しておいて結婚出来なかったのは自分。
結局今のこの現状は、全部自業自得なんだ。
「…泣くなって」
「泣いてない」
「泣いてんじゃん」
「だから泣いてないって。ほっといてよ!」
本当、可愛くないな。
自分で自分が情けなくなる。
人生最大のピンチを招いたのは、紛れもなく私自身なのに。
それで泣く、なんて。
みっともないし、かっこ悪すぎだった。
だけど。
そんな最低最悪な心境の私に、矢沢は言ったのだ。
「顔あげろよ」
とても冷静に。かつ、何故か少し優しく。
私はその声を聞いて、鼻水をすすりながらおしぼりを顔から離した。
「ははっ、ひどい顔だな」
「…うるさい」
「とりあえず、親が来るってのは来週なんだろ?」
「…うん」
「ったく…仕方ねーから協力してやるよ」
えっ?協力…って?
よくわからない言葉に、思わず首をかしげた。
「仮の彼氏、やってやる」
「か……りの彼氏?」
「そっ。とりあえず彼氏のフリして乗り切れば、長野に強制送還は免れるんだろ?」
わお…何それ。