強引同期が甘く豹変しました
エントランスの入口で、矢沢は真っ白なカードをかざした。
するとすぐに、ガラス戸がウィーンと開く。
矢沢に続いて中へ進むと、エントランスはホテルのラウンジのようで、オシャレな雰囲気が全開だった。
と、その時。ふと視線を感じてその方へ目を向けた。
わーお。
カウンターにはコンシェルジュまでいる。
ニコリと会釈されたので、自然と私もぺこっとお辞儀をした。
「おい、行くぞ」
振り返ると矢沢が立ち止まってこちらを見ている。
「あっ、うん!」
そう返事をして歩いていく矢沢に並ぶと、私は隣からその横顔を見上げた。
「何」
「えっ…いや、何でも…ないです」
「ははっ、何で敬語なんだよ」
「…何でだろ」
なんかこのタワマンの雰囲気に飲み込まれてるみたいで。
矢沢との会話にです、をつけるなんて…どうやら私、おかしくなっています。
「あ、あっちのが早いかも」
エレベーターホールに着くと、四つあるエレベーターを見ながら矢沢は慣れた様子でその中の一つに近付いていった。
そしてそのドアが開くと、私を先に乗せるように中へ入れてくれた。
前に立つ矢沢の指が、39のボタンをそっと押す。
つまり、矢沢の家は39階なのか?
って…。聞けばいいのに、聞けないくらい私は何故か緊張している。
だけどやけにシーンとした空気が居心地が悪くて。
「さっ、39階なの⁉︎」
思わず、聞いてしまった。