強引同期が甘く豹変しました
「ははっ、声でかいっつーの」
笑う矢沢がそう言いながらこっちを振り返る。
「サンキューイチロー」
「はっ?」
「覚えやすいだろ、3916。俺んちの部屋の号数」
「あははっ、何それ」
変な語呂合わせに、つい笑ってしまった。
サンキュー、イチロー…ね。まぁ、覚えやすいけど。
「っていうかさ」
「ん?」
「何でこんなタワマンに住んでるの?そりゃ、矢沢は営業部のエースだし私より遥かに稼いでるだろうけど。にしても、すごくない?」
いくらなんでもこんな素敵なマンションは、私たち世代の一般ピープルには手が出せそうもないような物件だ。
分譲っぽいし。賃貸だとしたら、ものすごい賃料じゃないか?
「まぁ、家賃は払ってないけど」
「はい?」
「親が投資目的で買ったマンションだから」
「…マジ?あんたセレブなの⁉︎」
「ははっ、別にそんなんじゃねーって。そりゃこの一棟丸々が親が建てたマンションだっつーならセレブだろうけど。区分所有だし。実家が不動産関係の仕事してるから、投資目的でこのマンションの2室を買ったってだけの話だよ」
区分…所有?投資…目的…。
いやいやいや、目的はどうあれ、このマンション内でそれを2室も購入したわけでしょ?
セレブじゃなくともお金持ちなんじゃないのか、矢沢の親は。
「降りないの?」
「えっ、ああ!降ります」
なんだかんだとぼーっと考えているうちに、エレベーターは39階に到着していた。