強引同期が甘く豹変しました



「ははっ、声でかいっつーの」


笑う矢沢がそう言いながらこっちを振り返る。


「サンキューイチロー」

「はっ?」

「覚えやすいだろ、3916。俺んちの部屋の号数」

「あははっ、何それ」


変な語呂合わせに、つい笑ってしまった。

サンキュー、イチロー…ね。まぁ、覚えやすいけど。


「っていうかさ」

「ん?」

「何でこんなタワマンに住んでるの?そりゃ、矢沢は営業部のエースだし私より遥かに稼いでるだろうけど。にしても、すごくない?」


いくらなんでもこんな素敵なマンションは、私たち世代の一般ピープルには手が出せそうもないような物件だ。

分譲っぽいし。賃貸だとしたら、ものすごい賃料じゃないか?


「まぁ、家賃は払ってないけど」

「はい?」

「親が投資目的で買ったマンションだから」

「…マジ?あんたセレブなの⁉︎」

「ははっ、別にそんなんじゃねーって。そりゃこの一棟丸々が親が建てたマンションだっつーならセレブだろうけど。区分所有だし。実家が不動産関係の仕事してるから、投資目的でこのマンションの2室を買ったってだけの話だよ」


区分…所有?投資…目的…。
いやいやいや、目的はどうあれ、このマンション内でそれを2室も購入したわけでしょ?

セレブじゃなくともお金持ちなんじゃないのか、矢沢の親は。


「降りないの?」

「えっ、ああ!降ります」


なんだかんだとぼーっと考えているうちに、エレベーターは39階に到着していた。


< 86 / 202 >

この作品をシェア

pagetop