強引同期が甘く豹変しました
「エアコンつけたし、もう大丈夫だろ」
すぐ後ろで声がして、振り返る。
すると首に巻かれていたマフラーを、そっと外された。
「あっ…ありがとね、貸してくれて」
そう言いながら矢沢を見上げると、その距離が近過ぎて慌てて視線を落とした。
「あ、荷物あっちの部屋に入れといたから。玄関入って左側のドアの部屋な。コートとかかけるなら適当にその部屋のクローゼット使って」
「うん、わかった。と…りあえずコレ、かけてくる」
こくこく頷いて着ていたコートに指を差すと、矢沢もコートを脱ぎながらリビングの左側にあるドアを開けてそこに入って行った。
私はそれを見届けてから、持っていた紙袋一つと共に再び玄関の方へ戻った。
…えっと、左側のドアってことはこっちから見ると右側ってことだよね?
恐る恐る廊下を進むと、言われた部屋らしき前にたどり着いた。
「失礼しま…す」
何故だかそんな独り言をつぶやき、そこのドアを開けた。
部屋の中には、矢沢が先ほどまで持っていてくれた紙袋三つが隅の方に置かれていた。
手にしていた紙袋をとりあえずその場所に置きにいくと、着ていたコートを脱いで閉められたままのクローゼットをそっと開けた。
クローゼットの中には、ハンガーが10本程度かけられていただけだった。
ひとまずコートをかけた私はくるっと振り返って部屋の中を見渡す。
あるものといえばベッドしかない。
とても殺風景な部屋だな、と思った。