強引同期が甘く豹変しました
「まぁ、とりあえず家見つかるまではウチに泊まりな?」
「えっ⁉︎いいの⁉︎」
「いいのも何も、そんな荷物抱えて他に行くとこあんの?」
紀子はそう言いながら私の足元に置いていたキャリーバッグを見ると、わざとらしく片眉をぴくっとあげる。
持つべきものは、やっぱり友達だな。
紀子の優しさに素直に甘えさせてもら……って、いや、待てよ?
「っていうか、本当にいいの?その…杉崎の了解とらなくて」
ふと頭に浮かんだ杉崎の顔に、私は慌てて紀子に聞いた。
「いいのいいの、元はと言えば私の家だし。転がり込んできたのはアイツだしね」
紀子はそう言うと、ニヤリと笑ってビールを飲む。
アイツというのは、私たちが勤めている株式会社BCシステムセキュリティの同期、杉崎 奏(すぎさきそう)。
杉崎とは、入社してから長年、紀子や私、他の同期も含めて仲の良い仕事仲間であり、気心知れた飲み友状態でもあったけど。
つい二ヶ月ほど前、その日は同期の誰もが都合が合わず、紀子と杉崎は入社7年目にして初めて二人で飲みに行った。
そしてその夜……二人きりで朝まで飲み続けた結果、紀子は珍しく酔い潰れてしまったらしく、目が覚めたら杉崎が紀子の家にいたらしい。
とまぁ、家にいたといえば聞こえは普通だけれど。
杉崎がいたのはベッドの上で……
つまりは、そういうことが起きてしまっていたという。
最初は紀子も、焦って私に「どうしよう!?」なんて聞いてきたけど。
杉崎は一年ほど前からなんとなく紀子に好意を持っているような気がしていたし、もしかしたら杉崎は紀子のことが好きなのかな、なんて思ったりしていた。
だからことが起きた三日後に杉崎が紀子に交際を申込んだことを知った時は、一夜の関係が彼の背中を押し、動き出せるきっかけになったんだろうと妙に納得出来た。
紀子が交際を受け入れたことには正直驚いたけれど…。
未だ実家暮らしの杉崎はそれからは彼女になった紀子の家に入り浸り。
ほぼ、半同棲状態になっている。
二年近く彼氏がいなかった紀子に彼氏が出来たのは本当に嬉しかった。
でもまさか、同期同士が今さらくっついてしまうなんて思わなかったってのが本音で。
こういう状況になっちゃってる今は……
気軽に紀子の家に泊まらせてもらってもいいのかを考えてしまうようになるというか。
杉崎にも、申し訳ない気持ちになるというか…。
「本当にいいの?」
「大丈夫だってば!気にしない気にしない!ほら、飲むよ〜」
でも紀子がそう言って、笑ってジョッキを持たせてくれたから。
「ふふっ、じゃあもう気にしない!お世話になります」
私も笑って答えることが出来た。