強引同期が甘く豹変しました
東京の朝は、窮屈で息苦しい。
「永井」
「ん?」
「すっげー眉間にシワ寄ってる」
「…うるさい」
未だに慣れない朝の通勤ラッシュは今日も私の表情を歪ませているらしく、前に立つ矢沢を見上げながらため息をついた。
「大丈夫か?」
「まぁ…なんとかね」
「3駅だからちょっとだけ頑張れ」
「うん…」
身長156センチの私は、通勤時には7センチのヒールを履いている。周囲に埋もれないための、小さな抵抗だ。
2度3度くらいはペタンコのパンプスを履いて電車に乗ったこともあったけれど、その度に朝の通勤ラッシュで埋もれてしまい、靴は踏まれるわ髪は見知らぬ人のシャツのボタンに引っかかるわでそれはそれはヒドイ目にあった。
それ以来、ささやかな抵抗ではあるが、7センチヒールは、私の通勤時の防具と化している。
「あ、そうだ矢沢。今日の会議ってさ」
言いながら、目の前の矢沢を見上げた。
「わっ…」
だけどその時。
電車が思いの外大きく揺れ、後ろの人に押された勢いで、私は矢沢の胸元に迫るように押し当てられた。