強引同期が甘く豹変しました
「会議がどしたって?」
ぎゅうぎゅうに押し詰められた状態で、電車は揺れ続けている。
「えっ、あ、えっと…」
不測の事態とはいえ、超至近距離から矢沢の声がしたせいで、何故か私は慌てていた。
ゴモゴモと口ごもりながら密着していた体をなんとか離そうと、足を踏ん張って頑張ってみた。
だけど。どう足掻いてみても、通勤ラッシュの波には勝てそうもない。
「ご、ごめん。ちょっと今苦しいから」
「え?」
「あっ、後で!後で話す!」
矢沢の顔を見ないように、うつむきながらそう言うだけで精一杯だった。
だって、おかしい。
なんか今、ドキドキしてる。
だいたい満員電車の中とはいえ、この距離は近すぎるでしょ。
「つーか、苦しいなら顔あげとけば」
はっ?顔をあげろ?
いや、苦しいっていうのはとりあえずとってつけた理由なわけで。
「大丈夫…今はマシだから」
「ははっ、なんだよそれ。あ!もしかして俺との距離が近すぎて緊張しちゃってるとか?」
「はい?ばっ、バカじゃないの?そんなわけ…」
ないでしょって。言おうとした。
だけど勢いで顔をあげてしまったせいで、最後まで言えなかった。
だって、見上げたそこには矢沢の顔がすぐそばにあって。
目が合うと……数秒、まるで時間が止まったみたいに、周りの音が聞こえなくなってた。
そして響いた。
ドキン…って。
胸の奥で、なにかが響いていた。