ふたり
そして、俺の母親譲りの黒髪を梳いた。
「その口調もどうにかしなさい。
女の子ですから、“俺”というのは止めた方が」
「そう言う飛世だって、自分のこと男なのに“わたし”って言うだろ」
「男が“わたし”というのは良いのですよ。
これから先も上司などに向かっては“わたし”と言うのですから。
しかし女の子が自分を“俺”と言うのは認められる社会になっていませんよ」
「じゃあ俺が第一人者になる!パイオニアだ!!」
「いけません真咲」
小さく音もなく、飛世は俺の額にキスをした。
一気に下がりかけていた体温が上がる。
「……お前は俺だけの女になるんだろ?
男みてぇな格好や口調しねぇで、彼女らしく振る舞ってみろよ」
「ひ…飛世っ……!」
「頑張ってその口調や格好直して行け。俺が手伝うからよ」
「……ひっ…飛世ぇ……!」
ぎゅっと飛世は、俺――じゃない、あたしを抱きしめた。
いつも自分を“わたし”と言い、女のあたしよりも丁寧な口調をする飛世。
あたしよりも、男の飛世の方が、立派な“女”だった。
だけど…何でだろ。
今の飛世は、男っぽく見える。
「大好きだよ…飛世……」
飛世が男っぽく見えると、
何だかあたしも女の子になっちゃうみたい……。