ふたり









俺は目を閉じた。

瞼の裏に浮かぶのは、初めて真咲と出会ったあの日。





6歳だった小学2年生の秋。

中途半端な時期に、俺は生まれ育った町からこっちへ引っ越してきた。




見知らぬ土地。

見知らぬ人。

生まれ育った町で感じたトラウマから、俺は友達が出来ず、転校先の小学校で孤立していた。

クラスメイトの中には、何を話しかけても話さない俺を、からかう奴らもいた。




『おまえしゃべれねーのかー?』


『なにかいってみろよー』


『おばけだー!』


『おーばーけ、おーばーけ!』




先生もクラスメイトも、何も言わなかった。

ただ俺は、教室の片隅で1人静かに、何も言い返さず唇を噛んで耐えていた。



家族には言えなかった。

また…心配かけてしまうと思ったから。

帰り道、通学路の途中にある公園で1人、泣くことも少なくなかった。





『……何泣いてんの?』





話しかけてきたのが、

海野真咲(うみの・まさき)だった。







< 31 / 56 >

この作品をシェア

pagetop