ふたり








初めて話したからか、真咲はとても喜び、まるで向日葵のような満面の笑みを浮かべた。

家族以外の人の笑顔を見たのは真咲が初めてで、俺は酷く驚いた。





『ヒメ?可愛い名前してるね!』


『ひ…ヒメじゃない…飛世……』


『よろしくねヒメ!あたしのことは真咲って呼んでよ』





……というわけで。

真咲は俺のことを、飛世ではなくヒメと呼ぶようになった。

まぁ…飛世なんて一風変わった名前より、ヒメの方がメジャーだし発音しやすいだろうけど。

いくら初対面の真咲に女らしく俺が見えても、俺はれっきとした男。

ヒメ、という呼び名は納得がいかなかった。





『ヒメー!またからかわれたの?
しょうがないなー、いっぱい泣きな!』




でも。

真咲は毎日泣いている俺の横に来て、慰めてくれた。

いつしか俺も、ヒメと呼ばれることに慣れてしまった。




ちなみに数日後、真咲は母親との会話の流れで、俺の名前がヒメではなく、飛世だと知った。

てっきり謝られるかと思ったが、謝られることはなく。

『ヒメの方が呼びやすい』と、呼び名は今まで通り変わらなかった。







……多分、この頃からだと思う。

例え恋愛感情はなくても。





俺が真咲の隣にいたいと思い始めたのは―――。







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