ふたり








『少しぐらい言い返しなよ。男でしょ?』




正直認めたくはないけど、当時も今も、俺より真咲の方が男らしかった。

俺にとって真咲は、大事な女の子ではなく、かっこいいヒーローだった。




『怖いですよ……』


『たまには言い返してよ。頑張って!』




真咲にとって言い返すことは、当たり前のことだったんだろう。

だけど俺にとって言い返すことは、当たり前じゃない。




『ヒメッ!』




俺は隣に置いてあったランドセルを乱暴に掴むと、自宅へ向かって駆け出した。

後ろから真咲の俺を呼ぶ声が聞こえるけど、全速力で走った。




『お帰りー飛世。……飛世?』



俺より先に自宅へ帰っていた2つ上の姉が、泣きながら帰ってきた俺を見て驚いた。

姉は真咲ほどじゃないけど、元気があって、すぐに人と仲良くなれる、俺にとって憧れの存在だった。




『どうしたの飛世!』




俺はランドセルを背負ったまま、姉に抱きつき泣きじゃくった。

姉は理由を聞かなかったけど、俺をずっと抱きしめ返してくれた。






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