ふたり
世の中に飛び立てる子になりますように。
そういう意味をこめられた、俺の名前。
名付けたのは、俺が転校すると同時に亡くなった祖父。
この祖父が、俺の今の口調に育て上げた張本人。
祖父は早くに祖母を亡くし、男でひとつで父を育て上げた。
何をしても許してくれたと言う祖父が、唯一父に言ったのは、
“丁寧な言葉使いをすること”。
祖父は父に、丁寧な言葉使いは何か教えた。
それが、一人称を“わたし”とし、敬語を使うこと。
教えられて来た父は、今まで自分のことを“俺”と言わないまま、成長した。
敬語は、家族以外には常に使っているらしい。
俺と姉も物心ついた頃から、父にそう教えられてきた。
幼い俺にとって、“わたし”と自分のこと言うのは、当たり前だと信じてきた。
それが、俺たち家族にとっては普通だったから。
――だけど。
学校に入学し、それが普通でないと知った。
周りの奴らの一人称は、男子が“俺”で、女子が“わたし”か“あたし”。
男子の俺が“わたし”と言うのは、“可笑しな奴”と見られた。
流れで俺は孤立し、物を隠されるなどいじめに合った。
それを知った両親と姉は、引っ越しを決意し、今の町に引っ越してきた。
俺をいじめた奴らと別れられるのは良かった。
だけど、特にいじめられてもいない姉が転校するのは、ショックだった。
別れ際、多くの友人に涙で見送られていた姉。
俺は、いじめられても、それを言い出すまいと決めた。
苦しむのは、俺だけで良いと思っていたから。