ふたり
手に鍋を持った真咲が、にっこり笑って、俺の横に腰かけた。
『探したよヒメ。
早く家に戻らないと、おじさんとおばさんとお姉さん、心配するよ』
『……帰りたくない。
帰ったらわたし、転校になってしまいます』
『転校?ヒメ、転校しちゃうの?』
『したくないのです、だから帰りません。
真咲さんと、離れたくありません…』
真咲は目を数回パチパチ瞬きすると、再びにっこり笑った。
『じゃあその気持ち、言えば良いよ』
『……え?』
『転校したくない、あたしと離れたくないって言えば良いんだよ。
おじさんとおばさんとお姉さん、きっとわかってくれるよ』
『でも……』
『あたしも、ヒメと離れたくない。
ヒメはあたしにとって、大事なお姫様だから』
俺はお姫様と言われたことを気にせず、声を上げて泣いた。
対して真咲は笑い、鍋とお玉を渡してくれた。
『中身シチューだよ、食べられる?』
『シチュー、大好きです』
『良かった。
ママがね、作りすぎちゃったの。
それでヒメの家におすそ分けに行こうとしたら、ヒメがいないって聞いて。
お鍋渡すの忘れて、探しに来ちゃったよ』
公園のベンチで、俺たちは1つのお玉を使ってシチューを食べた。
とろけるような甘いシチューは、泣きたいほど美味しかった。
――ん?
思えばあれって間接キスだよな?
うわぁ、俺いつの間に間接キス終えちゃったんだよ!
俺はベッドの上で、1人ゴロゴロ寝転がった。