ふたり
季節は秋だったものの、少し寒さを感じる時期。
ヒメは真っ白なポンチョみたいなものを羽織り、
可愛らしいクローバーのアップリケがついたジーパンを穿いていた。
ふわふわした茶色い癖っ毛は、まるで猫のよう。
あんなに可愛い女子がいたのか、と俺は驚き、一瞬にして彼女に興味を持った。
男子たちがいつまで経っても話さない彼女に興味を失い、どこかへ行った時。
話しかけてみようと1歩を踏み出すと。
彼女は膝から雨の止んだ濡れた地面に座りこみ、嗚咽交じりに泣きだした。
俺は何も出来ず、その場に固まった。
すると彼女は泣きながら立ち上がり、声を殺しながら歩きだした。
密かに追いかけて行くと、見慣れた住宅街に到着し、駆け回った公園のベンチに座りこみ、
誰もいないことを確認し、思い切り泣きだした。
俺は思わず声をかけた。
何を言っても、彼女は何も言わなかった。
だけど、彼女の傍にいられることが嬉しくて。
他愛のない、くだらない話をいっぱい彼女に聞かせた。
ようやく、彼女が名前を言った。
茅野ヒメ、というよく似合った名前。
間違いないと信じた。
彼女が、俺が守るべきお姫様だと。
『良いかマサ。
ヒーローは、お姫様を守らないといけないんだぞ?』
お気に入りの戦隊ヒーロー番組を見ている時、兄貴に言われた言葉。
彼女は、お姫様だ。
俺が守らないといけない、存在だ。