ふたり







『……わたし?』


『ッ!!』




ヒメは勢い良く立ち上がり、涙を袖で乱暴に拭き、行ってしまった。

俺は追いかけることはしなかった。





『ねぇー兄貴』


『うん?』


『男子が自分を“わたし”って言うのは可笑しい?』


『可笑しいつーか…変わってるよな。
そういうの、面接とかでしか言わないよ』


『……そうなんだ』





それ以来、ヒメは自分を“わたし”ということはなくなった。




もしかして、自分の一人称を知られたくないから、話さないの?

俺の中に、そんな疑問が湧き始めた頃。





『ヒメッ!』




俺はヒメを怒らせた。

『何故言い返さないのか』――俺にとって当たり前の疑問をぶつけただけ。






今ならわかる。

ヒメは言い返すことで、いじめられることを防いだのだ。

いじめられると両親や姉がどういう対応をするか、わかっていたから。







< 48 / 56 >

この作品をシェア

pagetop