ふたり
その日の夜。
俺は鍋を両手に、隣のヒメの家――茅野家へ向かった。
インターフォンを押して出てきたヒメの両親と姉は、落ち着いていなかった。
『飛世がいなくなった』――それだけを言っていた。
俺は両親と兄貴にヒメの家族を任せ、ヒメを探しに走り出した。
家を出る時に感じた鍋の重さなんて、気にしなかった。
そしていつもの公園で、俺はヒメを見つけた。
ヒメは過呼吸寸前で、泣いていた。
最近では俺が背中をさすったり、手を握ったりしてあげると、泣き止んでいたのに。
何をしても、ヒメは荒々しく呼吸をしながら、ひたすら泣いていた。
ようやく落ち着き、俺はヒメが転校するかもしれないと聞いた。
それを聞き、俺は酷くショックを受けた。
お姫様が、遠くへ行ってしまう。
俺が守ると幼いながら誓った、大事なお姫様が。
俺は俺なりに、ヒメと離れたくないと伝えた。
そして一緒に、シチューを食べた。
真っ赤になった顔で『美味しい』と笑うヒメは、凄く可愛かった。
多分この頃だと思う。
守りたいと言う気持ちが、恋愛感情に変わったのは。
隣にいたい。
幸せにしたい。
――この笑顔を、ずっと見ていたい。