御曹司と愛され蜜月ライフ
そんな私の想いとは裏腹に、ふっと、課長が口元を緩める。



「俺も、絢巳さんのようにちゃんと正面から戦おうと思う。……ここを出て、一度実家に戻るよ」



ガツンと、鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。

それくらい今の私は、彼の言葉にショックを受けていた。



「自分より何歳も年下の女性に触発されて決意するというのも、恥ずかしい話だがな。見合いの件も含めたこれからのことを、ちゃんと親父と話そうと思う」



少しだけ照れくさそうに語る課長は、先ほど絢巳さんと話した後のような晴れやかな表情をしている。


……だめだ。

課長が、自分の問題と正面からぶつかる前向きな決意をして──こんないい顔をしているのに、私が黙っていちゃだめだ。

笑え。……笑え。



「……よ、よかったです、課長」



しぼり出した声は、少しだけ震えてしまっていた。

自分を落ち着かせるように小さく深呼吸し、また改めて口を開く。



「私も、それがいいと思いますよ。こんなボロっちいところ、近衛課長には似合わないですし」



言いながら、おぼんを持って立ち上がる。

こわばる顔をなんとか動かし、課長に向かって微笑んで見せた。



「……本当に、よかったです」



言うが早いか、顔を背けて早足で玄関を目指す。

視線を逸らす間際に見えた課長の表情がなんだか驚いているように見えたけれど、構わずその脇を通り過ぎた。
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