御曹司と愛され蜜月ライフ
持ち上げられた左手にきゅっと力を込め、課長の手を握り返した。



「か、課長、なに……なんなんですか、これ……」

「何って。きみが言ったんだろう」



イタズラっぽく笑って、彼がまるで騎士のように私の手の甲に口づける。

そのくちびるの感触に、鼓動が高鳴った。



「……『プロポーズは、バラの花束を持って』って。だからこうして、用意して来たんじゃないか」



──ああ、もう。

なんなの、この人。どれだけ私を混乱させれば、気が済むの。

電子レンジでたまごを爆発させちゃったりとか、いきなりプレゼントをくれたりとか。

でも、これは別格。今回のは、ほんとにもう、わけわかんない。


……わかんない、けど。



「……これ、わざわざ買って来たんですか」



鼻声でつぶやきながら、そっと花束を受け取る。

逆に片手が空いた彼は、その手を胸にあてまた微笑んだ。



「そう。花屋なんて、昔母親にカーネーションを買った以来だ。店員には、『プロポーズに使うのでラッピングは丁寧にお願いします』とちゃんと伝えたぞ」

「そんな、恥ずかしいことを……でも、とっても綺麗、です」

「俺に言わせればきみの泣き顔の方が綺麗だし、かわいいがな」



さらりとそんなことを言ってのけて、課長が私の手に頬ずりする。

どうしちゃったの、課長。そんな、砂糖菓子みたいに甘ったるいセリフを吐ける人だったの?

そうやって心の中で悪態をつきながら、だけど私は、涙が止まらない。

ともすれば、まるで幼い頃夢見た王子様のような。彼の言葉が、行動が、うれしくて。しあわせで、涙が止まらない。
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