御曹司と愛され蜜月ライフ
「このアパートを出て行ってから、親父とちゃんと正面から向き合ったんだ。だいぶ揉めて時間はかかったけど、なんとか親父を納得させることができた。姫野建設の社長にも、俺からきちんと話は通したぞ」

「え、だ、大丈夫だったんですか……?」

「ああ。何より、見合いをする当人同士が揃って反対したからな。親たちとしてはそれを無視するわけにいかないだろ」



少しだけ身体を離してニッと口角を上げた課長に、自分の中の不安がみるみる溶けていくのがわかる。

嘘みたい。課長が、私のことをすきだと言ってくれた。

私を、必要だと言ってくれた。


たまらなくなってぎゅっと両目を閉じると、課長のくちびるが涙で濡れる私のまつげに落ちる。

ゆっくりまぶたを押し開けた、その先で。いとおしそうに私を見つめる彼と視線が絡み、自然と笑みが広がった。



「私も……課長がすきです。だいすきです」



その瞳をまっすぐ見据えて、想いを告げる。

一瞬驚いたような顔を見せた彼は、それでも次の瞬間、とてもうれしそうに笑った。



「ありがとう。……やっぱりきみは、世界で一番かわいい」



そんな甘い言葉をささやいて、課長が私のあご先を持ち上げる。

彼が何をしようとしているのかは、わかっていた。わかっていたから、私はただそっと、瞳を閉じる。


眼前に課長の気配を感じ、やわらかく、くちびるが重なった。

一度離れたそれはすぐにまた舞い戻り、今度はさっきよりも、長く。

慈しむようなその口づけが、逆にすごく恥ずかしくて胸が高鳴って。彼が少し角度を変えただけで、たまらず甘い吐息がもれた。

感触を味わうように上くちびるを食まれる。課長の肩に置いた手に力を込めたら、最後とばかりにぺろりと表面を舐めてくちびるは離れていった。

けして深い触れ合いではなかったのに、息が上がっている。そんな私を見下ろして、課長は意地悪な笑みを浮かべた。
< 136 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop