御曹司と愛され蜜月ライフ
「なんだ、もう降参か? この程度で情けない」

「な……っも、もうっ」



照れ隠しに課長の胸を押して距離をとろうとしたけど、私を抱きしめる力が思いのほか強くて叶わなかった。

そして、今さらながら私は気付く。


……ここ、玄関! しかもドア、開けっぱなし!!



「す、すみません課長、ちょっと離れ……」

「んー? ああそうだな、ここじゃほぼ外だし」



私のひたいにキスしながら、近衛課長がぽそりと話す。

そうそう。誰に見られるかもわからないししかも私今ドキドキしすぎて死にそうだから、とりあえず距離を──……。



「ひゃっ?!」



てっきりこのままハグから解放してくれると思っていたのに、突然身体が宙に浮いたから思わず悲鳴をあげた。

私の背中と太ももに手をまわし、まるで父親が小さい子どもにするように軽々と抱き上げた課長が、器用にドアと鍵を閉めてから堂々と玄関を上がる。



「ああ、やっぱりいいな、卯月の部屋の匂い。落ち着くし興奮する」



なんだか感慨深げに課長がつぶやいてるけど、言ってることはそこはかとなく変態くさい。そしてあの、なぜベッドに向かっている……!?

振り落とされまいと反射的に課長の頭を抱きしめるようにしていた私は、迷いのないその動きに動揺を隠せない。

しかしながら、ここは狭いワンルーム。あっという間にベッドの前までたどり着くと、課長は簡単に私を引きはがして簡単にベッドの上へと落とした。



「あああの、課長……?」

「ん?」



見るものを虜にする満面の笑みで彼が小首をかしげる。

けれども脱いだジャケットを床に落とし当たり前のように馬乗りになられている今の私には、ときめきとは別に背筋を冷たいものがつたう感覚があって。



「あのー、て、展開、早すぎません?」



あわあわと視線を泳がせながらも、意を決して口を開く。

課長は自分のネクタイに人差し指を引っかけて緩めつつ、空いた手が私の頬に触れる。
< 137 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop