御曹司と愛され蜜月ライフ
「いや、別に? 俺たちは、普通のカップルがすることはもうあらかた済ませただろう。手料理食べて、デートして、プレゼントして、……で、さっきキスも済ませた」



思わずうっとりしてしまうような手つきで頬をさするのと同時進行で、右手に握りっぱなしだった花束を取り上げられた。

あ、と気付いたときにはもう遅い。私の身体は完全に、仰向けの状態でベッドへと縫いつけられていて。

課長の左手がイタズラに、腰のあたりのラインをなぞる。



「あとはもう、こっちの相性を確かめるだけじゃないか?」

「……ッ、」



ほんとに……っほんとにもう、この人は……!!

恥ずかしすぎて頬を熱くしながら、わなわなとくちびるを震わせる。

それでも、どんなに照れくさくたって彼を拒絶することだけはない私は。うらめしげにその涼しい顔を睨みつつ、首元に手をまわして引き寄せた。



「……お、お手柔らかに、お願いします……」

「うーん。それは無理かな」

「えっ??!」



私が思わず声をあげると、目の前の課長は楽しそうに顔をほころばせる。

そろそろ黙れ、とくちびるを塞がれたら、もう、後は彼にしがみつくだけだった。



「……すきだ、撫子」



やさしく激しい、甘い熱に浮かされながら吐息とともに愛の言葉を流し込まれて、私は身体いっぱいしあわせに包まれる。

眩暈がするほど熱い逢瀬の合間、「私のどこをすきになったんですか?」と思いきって訊ねてみたら、おかしそうに笑って課長は私の頬にキスをした。



「今さら。まんまとヒトの胃袋を掴んでおいて、とぼけるなよ」

「……っん、ちょ、ちょろすぎですよ、課長……」



もれ出そうになる甘ったるい声を、自分の手の甲でおさえ込んで。いつだったか、彼がこの安アパートに引っ越してきた理由を聞いたときと同じ、そんな照れ隠しが口をつく。

だけど、あのときとは決定的に違うこと。それは今自分を抱きしめてくれているあたたかい腕の持ち主を、たまらなくいとしく思っていること。



「まあ、それだけじゃないけどな。とりあえず俺がきみをすきな理由、100個くらい言ってみせようか?」

「……っ遠慮、します……っ」



その蠱惑的な声が耳元で低くささやくたび、心臓が止まりそうだ。

すきな理由100個、なんて。それなら、私だって言えてしまう。

だけど今は、彼からそれを聞かせてもらう余裕はない。ただひたすら、いとしい人の熱に蕩かされて溺れていく。


まだまだ不安はあるけど。自分に、自信なんてないけど。

それでも、大丈夫。だいすきなこの人と一緒なら、きっと大丈夫。

どんな困難も乗り越えて、前に進んで行けると信じられる。


小さなアパートの隣人より、もっと近く。

あなたの隣り、手をつないで。










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