御曹司と愛され蜜月ライフ
「ありゃー、修羅場お疲れ」



気の毒そうに栗山さんが声をかける。自分のロッカーからコラーゲンドリンクを1本取り出し、「これあげる」と岩嵜さんに手渡した。



「ありがとうございます……ほんとにつッッかれました。もーあたし、いい歳して夢追いかけてる男には絶対引っかかりません」

「え、その元カレっていくつだったの?」

「34歳です」



おおう、それはたしかにバンドでメジャーデビューの夢追いかけるには厳しい歳……。

岩嵜さんが、受け取ったばかりのドリンクを一気飲みする。

ぷは、と息をもらし、やたら力みながらキャップを閉めた。



「次付き合う人は、絶対結婚狙える人にします。とりあえず定職についてて、そこそこ経済力ある人。外見はゼータク言いません」

「なに言ってんの岩嵜。あんたまだ若いんだしもっと上狙えるって」



ハイ、そこで無駄に焚きつける栗山さん、さすがです。

上昇志向の栗山さんはともかく、岩嵜さんは失恋したばっかりなのに……とか思って当の本人を流し見ると、予想外にギラついた目をしていたからおののく。



「栗山さん、そう思います? まだ高いとこ狙っていいですかね?」

「イケるイケる。岩嵜なら医者弁護士官僚あたり狙えるって」

「やっぱ夢はでっかく持つべきですよね……!」



えーと、話についていけない。さっきまでのしおらしい様子はどこへ……?

けどまあ、後輩が元気なのはいいことだ。思わず苦笑しつつ、蚊帳の外な私はロッカーの内側にある鏡で前髪を整える。
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