御曹司と愛され蜜月ライフ



「おなかすきましたねぇ」

「おなかすいたねぇ」



受付を訪ねるお客さんが途切れたところで、岩嵜さんと私は口々にぼやいた。

左手の腕時計にちらりと視線を落としてみれば、交代の時間まではあと5分。もう少しで昼食にありつけると、背筋を伸ばして気合いを入れた。

受付嬢のA番P番が入れ替わる時間は、午後12時半だ。他の社員より少し早めの11時半からお昼休みに入ったP番のふたりが、時間になると交代を知らせに来てくれる。


もうすぐ姿を現すであろう同僚たちを待って内心そわそわしていると、エレベーターホールから複数の足音と話し声が聞こえてきた。

残念ながら、耳に届いた声は男性のものだ。ひそかに落胆しつつも、挨拶のためそちらに目を向ける。



「……お疲れさまです」

「お疲れさまですー」

「ああ、ご苦労さま」



会釈とともに私と岩嵜さんが声をかける。歩いて来た3名のうち1番に言葉を返してくれたのは、ここ十数日ですっかり見慣れてしまった顔だった。

──まあ、私が見てるのはメガネなしバージョンばかりですけど。



「ふふふツイてます、交代前に近衛課長見れちゃいました~今日もかっこよかった……!」

「……よかったねぇ」



未だに玉の輿を諦めていないらしい岩嵜さんのセリフには、無難な言葉を返しておく。

まさか今、自分の隣りにいる先輩が──その“かっこいい近衛課長”と、しょっちゅうプライベートで会っているなんて知ったら。この後輩は、どんな反応をするんだろうか。
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