御曹司と愛され蜜月ライフ
ほどなくして現れた同じ総務部の宮本さんと黒田さんに受付業務を引渡し、私と岩嵜さんは軽い足取りで7階にある総務部のオフィスへと戻って来た。
「今日のお昼はあたし、近所にあるオシャンティーなお惣菜屋さんで買ったデリなんですよー」
「へーいいなぁ、私は今日も自分の手抜き弁当だよ」
「卯月さんすごいですよねぇ、毎日手作りのお弁当でしょ? 女子力ぱないっすよー」
「いやいやいや……」
私と彼女はデスクが向かい同士だ。通勤バッグからお弁当包みを出そうと手を伸ばしかけたところで、デスクに置いていたスマホが震えた。
新着メールがあります、というお知らせを指でつつけば、勝手に開かれるメールアプリ。
フォルダの1番上、差出人名に【近衛課長】の文字がある受信メールの内容は、相変わらずのシンプルな文面だ。
【今夜はハンバーグが食べたい】
読んだ瞬間「子どもかよ!」と思わず声に出してつっこみそうになったけど、すんでのところで堪えた。
このひとが案外子ども舌ということは、これまでの会話やおかずを差し入れたときの反応ですでに察知済みだ。とりあえず、メールを読んだからには返信を打つ。
【了解しました。煮込みと焼きどっちがいいですか?】
送信した直後、バイブとともに今度は『着信中』の文字が表示されたからさすがに驚いた。
それでも反射的に通話ボタンをタップし、スマホを耳にあてて声をひそめる。
「も、もしもし?」
《“焼き”がいい。ソースはまかせる》
「……かしこまりました」
通話時間、ものの十秒足らず。暗くなったディスプレイを見つめながら、なんか今の会話どこぞの貴族とお抱えシェフって感じだったよなーと思わず小さくため息を吐いた。
そんな私の様子を、岩嵜さんが向かい側から見ていたらしい。きょとんと目をまたたかせて小首をかしげる。
「卯月さん、今の電話のお相手ってどなたです?」
「えっ? ……なんで?」
質問にドキリとしつつ、平静を装って逆に訊ねた。
持っていた割りばしを下くちびるにあて、「えーっと」と彼女が思案する。
「なんか……今の卯月さん、ビッミョーなカオしてたんで」
「……ビッミョー……」
「ビッミョーです」
そりゃあ……無意識とはいえそう言われる表情になるかもしれないなあ。
さっきの近衛課長とのやり取り含め。ここ最近の出来事を思い返す私は、今もきっと岩嵜さんいわく『ビッミョー』な顔をしていると思う。
「今日のお昼はあたし、近所にあるオシャンティーなお惣菜屋さんで買ったデリなんですよー」
「へーいいなぁ、私は今日も自分の手抜き弁当だよ」
「卯月さんすごいですよねぇ、毎日手作りのお弁当でしょ? 女子力ぱないっすよー」
「いやいやいや……」
私と彼女はデスクが向かい同士だ。通勤バッグからお弁当包みを出そうと手を伸ばしかけたところで、デスクに置いていたスマホが震えた。
新着メールがあります、というお知らせを指でつつけば、勝手に開かれるメールアプリ。
フォルダの1番上、差出人名に【近衛課長】の文字がある受信メールの内容は、相変わらずのシンプルな文面だ。
【今夜はハンバーグが食べたい】
読んだ瞬間「子どもかよ!」と思わず声に出してつっこみそうになったけど、すんでのところで堪えた。
このひとが案外子ども舌ということは、これまでの会話やおかずを差し入れたときの反応ですでに察知済みだ。とりあえず、メールを読んだからには返信を打つ。
【了解しました。煮込みと焼きどっちがいいですか?】
送信した直後、バイブとともに今度は『着信中』の文字が表示されたからさすがに驚いた。
それでも反射的に通話ボタンをタップし、スマホを耳にあてて声をひそめる。
「も、もしもし?」
《“焼き”がいい。ソースはまかせる》
「……かしこまりました」
通話時間、ものの十秒足らず。暗くなったディスプレイを見つめながら、なんか今の会話どこぞの貴族とお抱えシェフって感じだったよなーと思わず小さくため息を吐いた。
そんな私の様子を、岩嵜さんが向かい側から見ていたらしい。きょとんと目をまたたかせて小首をかしげる。
「卯月さん、今の電話のお相手ってどなたです?」
「えっ? ……なんで?」
質問にドキリとしつつ、平静を装って逆に訊ねた。
持っていた割りばしを下くちびるにあて、「えーっと」と彼女が思案する。
「なんか……今の卯月さん、ビッミョーなカオしてたんで」
「……ビッミョー……」
「ビッミョーです」
そりゃあ……無意識とはいえそう言われる表情になるかもしれないなあ。
さっきの近衛課長とのやり取り含め。ここ最近の出来事を思い返す私は、今もきっと岩嵜さんいわく『ビッミョー』な顔をしていると思う。