御曹司と愛され蜜月ライフ
「……なんですか?」



その眼差しの意図するところがわからず、素直に首をかしげた。

課長はやはり眉間にしわを寄せたまま答える。



「食べさせてくれないのか? おかゆ」

「……はい?」

「看病の定番だろ。フーフーして、あーん」



……何を言っているんだろうかこのアラサー御曹司は……。

熱で少し頭のネジが緩んじゃってんのかな。いや違うか、これがいつものペースだったか……?


何はともあれそんな要求は飲めないので、「遠慮します」とつっぱねておかゆが入った器を押し付けた。

そんなふうに流しておきながら私の頬が熱いのは気のせい、気のせい。

若干まだ不満そうにしていた課長も、おかゆに視線を落とすとその目元をやわらかく緩める。



「おいしそうだ。……いただきます」



ぱく、と、ひとくち。ゆっくり咀嚼し、含んだ分を飲み込んだところで私に視線を向けた。



「うん、うまい。これならいくらでも食べられそうだ」

「そうですか」



彼の言葉と微笑みに、ほっと胸をなでおろす。

今まで自分が作った料理を課長に『まずい』と言われたことはなかったけど、それでも初めて出したものを食べてもらうときはいつだって緊張する。

そのまま課長はあっという間に土鍋に残っていたおかゆも平らげて、食後にきちんと風邪薬も飲み込んだ。


よかった。これだけ食欲あるなら、たくさん食べてたくさん寝れば風邪もすぐ治っちゃうかも。

ゴホゴホと咳をし始めた課長をまた横にさせて、掛け布団をしっかりかけてやる。
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