御曹司と愛され蜜月ライフ
少し迷ってから、課長の首筋にそっと手のひらをあてた。

ぴく、と少しだけ身じろいだけど、課長は嫌がる様子もなくそのままでいてくれる。



「……熱いですね。こんなになるまで働いて……ほんと、課長は無理しすぎです」



言いながら、思わず眉間にしわが寄った。

会社の跡取りという立場上、仕方ないのかもしれない。それでも私には、目の前にいるこの人があまり無理をする姿を見たくないのだ。

その感情は“上司で隣人”というちょっと特殊な関係性から来るものなのか、……それとももっと別の何かから来ているのか、自分でもよくわかっていないけれど。

ただ、これだけは言える。こんなふうに弱っている近衛課長の姿に、私の胸は、きゅっとしぼられるような痛みを覚えている。


もしかしたら私は今、自分でも思っている以上に変な表情をしてしまっているのかもしれない。

だってなぜか、私を見上げる課長がその端整な顔に笑みを浮かべてる。



「“無理”をしてるつもりはないがな。自分が今できることを、精いっぱいやってるだけだ」

「……それでも課長が倒れたら、心配する人がたくさんいますよ。自覚してください」



たぶん社長とか、上司たちとか、部下たちとか。

あと、近衛課長ファンの女子たちとか。


自分が知ってるコノエ化成の面々を思い浮かべながら、ブツブツつぶやく。



「なんだ。卯月は俺の心配してくれないのか?」



課長の声音はどこまでも穏やかだ。からかうような笑いまじりの言葉に、一瞬、息が詰まった。

私が……課長の心配、なんて。

……そんなの。
< 86 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop